WORD OFF

くちのりする

意味
やっとのことで生計を立てること。

用例

主に、生活が苦しい中でも、最低限の食事を得てなんとか暮らしている状態を表すときに使います。特に、学者や文筆業、芸術家などが清貧に耐えて活動している文脈で使われるのが一般的です。

これらの例文では、いずれも困窮した状況にあって、それでも最低限の生活費を得て糊口(ここう)をしのぐ、という意味で用いられています。働き口が不安定な場合や、理想を追って経済的には厳しい暮らしをしている人に対して、同情や敬意を込めて使われることもあります。

注意点

「口に糊する」という言い回しは、現代ではやや古風で文語的な響きを持っています。したがって、日常会話よりも文章、特にエッセイや回想録、評伝などに適しています。

また、「糊」はここでは「食物を得る」「生活を維持する」という意味の比喩であり、接着剤や料理用の糊とは異なります。読み手によっては意味が伝わりにくい可能性があるため、文脈を工夫したり補足的な説明を入れることが望ましい場面もあります。

「糊口をしのぐ」と意味は同じです。どちらを使うかは文体や響きの好みによります。

背景

「口に糊する」の「糊」とは、本来は米などの穀物からとった澱粉を煮て作る糊(のり)を指します。古代中国では、糊は食料としても用いられており、とくに貧しい人々が口にする、わずかで粗末な食物の象徴とされていました。

この表現の出典は中国の古典に求められます。特に、後漢の学者たちの伝記や、儒学者の清貧な暮らしを描く記録の中で、「糊口」という言葉が頻出します。「糊口」とは「口を糊する」こと、すなわちかろうじて食べていける状態のことで、「しのぐ」「しのぎを削る」の原義にもつながります。

日本でも江戸時代から明治時代にかけて、儒者や学者、文人らが「口に糊する」という表現を用いて、自らの貧しさを淡々と表す一方で、それを恥とせず、むしろ理想を追い続ける姿勢を示す文脈で誇らしく使うこともありました。

そのように、「口に糊する」という言い回しには単なる困窮だけでなく、「清貧」「高潔」「理想への献身」といった価値観も含意されることがあるのです。

類義

対義

まとめ

「口に糊する」とは、最低限の食べ物を得て、やっとのことで暮らしを立てている状態を意味する言葉です。現代においては、単なる困窮の描写にとどまらず、理想を追う中での清貧や、努力を続ける人への敬意を込めて使われることもあります。

背景には、中国古典に由来する「糊口」という表現があり、糊を食べるほどの貧しさを通して、生活の厳しさや耐え忍ぶ精神を表す伝統的な価値観があります。日本でも、学者や文人が用いたことで、ある種の品格と結びついた語感をもつようになりました。

この表現は、日常的にはあまり使われなくなりましたが、文章中での使用には重みと風格を添えることができます。特に、貧しいながらも気高く生きる人を描写する場面で、深い情感を伝えるのに役立つ表現と言えるでしょう。