糊口を凌ぐ
- 意味
- わずかな収入で何とか生活していくこと。
用例
貧しい暮らしや生活の困窮、あるいは副業や臨時収入などで生計を立てている状況において使われます。
- 退職後は年金だけで糊口を凌ぐ日々が続いている。
- 昔は日雇いの仕事で糊口を凌ぐしかなかった。
- 作家としてデビューするまで、アルバイトで糊口を凌いでいた。
いずれの例文も、生活が豊かとは言えず、最低限の暮らしを維持するために苦労している様子を表しています。「凌ぐ」は「しのぐ」と読み、「耐える」「乗り越える」意味合いを含みます。
注意点
「糊口」という語は耳慣れないため、読み間違いに注意が必要です。「のりぐち」と読むのは誤りです。
また、現代では「糊口を凌ぐ」という表現はやや古風で、文語的・書き言葉的な印象を与えることがあります。日常会話では「生活費を稼ぐ」「なんとか暮らす」などの言い回しのほうが一般的ですが、文学的あるいはやや皮肉めいたニュアンスで使うときには有効です。
「糊口」は「糊(のり)で口をつなぐ」といった意味合いから来ており、まさに飢えをしのぐために最低限のことをしているイメージがあります。
背景
「糊口を凌ぐ」という表現は、中国の古典『晋書』や『荘子』などに見られる言い回しに由来します。「糊口」とは、元来「糊(のり)」で口をふさぐという字面で、転じて「わずかな食事」「最低限の食べ物」を意味するようになりました。
その背景には、古代中国における貧困と生計の問題が色濃くあります。当時の知識人たちは、仕官の機会を得られず困窮する中、筆を執ったり雑務に従事したりして日々の糧を得ていました。そのような暮らしを「糊口」と表し、それをなんとか乗り越えることを「凌ぐ」と言ったのです。
日本でも漢籍の影響を受け、平安時代にはすでに「糊口」の語が登場しています。特に江戸時代には、下級武士や町人の暮らしぶりを描いた随筆や戯作の中で頻繁に使われるようになりました。生活苦を描写する言葉として、文学作品や評論でも見られる語です。
現代でも、フリーランスや非正規労働者の不安定な生活状況を語る際に、「糊口を凌ぐ」という表現が使われることがあります。とりわけ、理想や志のために安定を犠牲にしている人物像を描くとき、少し風格ある響きを添えてくれる表現です。
類義
まとめ
「糊口を凌ぐ」は、貧しい中でも何とか生活を成り立たせている様子を表す表現です。語源は中国の古典にさかのぼり、最低限の糊(のり)で口をつなぐという字義から、「食いつなぐ」「飢えをしのぐ」といった意味に展開しました。
この表現には、ただ単に貧しいというだけでなく、困難を抱えながらも踏ん張って生き抜く姿勢や、志を持ちながらも現実と向き合う人間像がにじみ出ています。文学や評論では今なお力強い表現として重宝されています。
現代でも、困窮を強調する表現としてだけでなく、誇張せずに厳しい現実を描写する手段として有効に使われています。「糊口を凌ぐ」という一言の中には、生きることの切実さと、諦めずに生き抜こうとする静かな意志が込められているのです。