事なきを得る
- 意味
- 大事に至らず、無事に済むこと。
用例
危機やトラブルが予想されたが、結果的に大事にはならなかった場面で用いられます。
- 消防車が来る騒ぎになったが、ボヤで済み、事なきを得た。
- 取引先とのトラブルも、謝罪と誠意ある対応で事なきを得た。
- 大雨で川が増水したが、決壊せずに事なきを得た。
いずれの例も、事態が悪化するおそれがあったが、結果として無事に収まったことを表しています。日常的なトラブルから自然災害、社会的な対立まで幅広く使える表現です。
注意点
「事なきを得る」は、すでに何らかの問題が発生していた、または発生しかけたが、無事に終わったという過去の事象に対して用いるのが自然です。未来への願望や予測に使うとやや不自然になる場合があります。
また、語調がやや硬いため、日常会話で乱用すると冷たく聞こえることもあります。たとえば、災害時に他人事のように「事なきを得たからよかったね」と言うと、相手の感情に寄り添わない印象を与えるかもしれません。
背景
「事なきを得る」は、古くからある日本語の定型表現で、文語的な響きが残る言い回しです。「事」は「事態」「問題」「事件」などの広義のトラブルを意味し、「得る」は「うまく切り抜ける」「免れる」といった意味合いを持ちます。
文献的な初出は明確ではありませんが、武家社会の報告文や、江戸時代の書簡などで見られる形式が原型となっていると考えられます。とくに、武士階級や官吏が災難や事件を報告する際に、最後に「事なきを得たり」と結ぶことで、穏便に済んだことを知らせる役割を果たしていたと推測されます。
近代以降、この表現は新聞や官報など、公式・準公式な文書で多用されてきました。たとえば火災報道や天災、交通事故などに関する記事では、「被害は軽微で、住民は全員避難し事なきを得た」のような文言が定番となっています。
この背景には、日本文化に根ざす「和をもって貴しと為す」精神が反映されていると見ることができます。大ごとを避けること、平穏無事に収めることが評価される社会において、深刻な事態を未然に防げたという事実は、それ自体が大きな価値を持ちます。
また、この表現は客観的な文体にも適しているため、ビジネス文書や謝罪文、報告書、果ては官僚的な言い回しまで、幅広い文脈で使われてきました。その一方で、感情が見えにくい言葉でもあるため、温かみを出したい場面では他の表現との使い分けが必要とされます。
まとめ
「事なきを得る」は、何らかのトラブルや危機が発生しそうになった場面で、結果的に無事に済んだことを表す言葉です。報告やニュース記事などで頻出し、聞き手に安堵感や冷静な結末を伝えるのに適しています。
ただし、あくまで過去形の表現であるため、未来に起こるかもしれないことへの予防線としては使えません。また、文語調のため、日常会話で多用すると堅苦しく感じられることがあります。
それでも、適切に使えば、深刻になりかけた状況が無事に収まったことを伝える有力な語彙となります。ビジネスや公的な報告では信頼感や落ち着きを表す手段として、今後も活躍する表現であり続けるでしょう。